研究大会
過去に開催された研究大会のプログラムは以下のとおりです。
■2023年度研究大会
日時:2023年7月15日(土)
開催形式:オンライン
13:00-13:20
総会・開会挨拶
13:30-14:00
一般発表
中谷碩岐「中期デリダのカント解釈における信の問題」(司会 平田公威)
14:00-17:00
シンポジウム
「地域が人を育て、人が地域を育てる」
- 報告 (1) 長妻三佐雄「東井義雄と但東・豊岡」
- 報告 (2) 岩本真一「保田與重郎と桜井・京都」
- 報告 (3) 植村和秀「折口信夫の大和」
- 総合討議
(司会 長妻三佐雄、荻野雄)
■一般発表
中谷碩岐「中期デリダのカント解釈における信の問題」
本発表は20世紀フランスを代表する思想家の一人であるジャック・デリダ(1930-2004)の著作『エコノミメーシス』(1975)について、特にそのカント『判断力批判』読解に関する箇所を扱うものである。具体的には本発表は、『声と現象』(1967)を中心としたデリダの現象学読解と『エコノミメーシス』との議論の連続性に着目することで、デリダのカント解釈をデリダ思想の系譜の中に位置付けるとともに、デリダがカントの中に見出した「信」の主題の内実を明らかにすることを試みる。
『判断力批判』読解、或いは芸術論という『エコノミメーシス』の主題は一見すると前期デリダの現象学研究という主題から独立したものであり、それ故これまでこの著作は現象学を中心とした前期デリダ思想との連続性という観点からはほとんど論じられてこなかった。それに対して本発表は、そうした連続性に注目して『エコノミメーシス』を読解することで、デリダの『判断力批判』解釈の独自性を理解することが可能であると主張する。
『エコノミメーシス』では、『声と現象』で主題的に論じられた意識の自己触発の構造である「私が話すのを聴く」という表現を中心として『判断力批判』の読解が行われる。本発表は『声と現象』を中心に、デリダの現象学に関する議論を補助線としてデリダの『判断力批判』読解の中に現れる「信」という問題系の内実を明らかにすることを試みたい。具体的には本発表は、デリダは『判断力批判』における「記号作用」の中に「信」の問題を見出し、「知」と「信」を区別することによってカント的な意味での批判を反復しているのだが、この彼のカント解釈は現象学解釈と連続的に理解可能であると主張する。こうした本発表の試みは、これまで十分になされてこなかった、現象学解釈とカント解釈を一貫した図式の下で包括的に理解するデリダ解釈の可能性を開くだろう。
■シンポジウム要旨
社会芸術学会の設立趣旨に「芸術は、社会のなかで生まれ、育ち、そしてこれに働きかける」とあるが、「地域」も芸術や思想に影響を及ぼすとともに、芸術や思想が「地域」に働きかけることもある。生まれ育った「地域」が思想形成に影響を与え、逆に、そこで形成された思想が「地域」を変えてゆく。また、ある「地域」への想いのなかで生まれた芸術や思想が、今度は地域文化を豊かに彩るようになる。今回は「地域が人を育て、人が地域を育てる」というテーマのもと、とくに近畿圏の「地域」との関係が深い人物を取り上げ、その芸術や思想について検討したい。
- 長妻三佐雄「東井義雄と但東・豊岡」
生活綴方教育の実践者としても知られる東井義雄は、戦後、『村を育てる学力』を発表して教育の世界で注目を集めた。高度成長期に差し掛かるころ、地域の産業を振興するためにも、子どもたちの学力を高めようと学校教育のあり方を再検討した。作文教育で東井の活動は注目されたが、その一方で「教育者の転向」として戦時中の言動が批判的に検証される。教育学の分野では東井教育の先行研究は多く存在している。本報告では、当時の政治・社会状況のなかで、東井の教育実践や教育思想がどのように形成され、機能したのかを検討する。
- 岩本真一「保田與重郎と桜井・京都」
戦前・戦後に様々な意味において「活躍」した文藝批評家の保田與重郎は、出生の地である奈良、殊に桜井との関わりで論じられることが多い。ただ、確かに奈良は保田の思想形成において決定的な影響を与えてはいるものの、戦前に「時代の寵児」となった時期は東京で生活しており、戦後、文壇に「復活」してからは京都に居を構えている。今回の報告では、保田が戦地より桜井に復員してから京都に移住するまでの約10年間に着目し、奈良と京都という二つの地域を楕円の二定点と捉えることで、環境的・人的関係の双方から「人と地域」というテーマについて考えてみたい。
- 植村和秀「折口信夫の大和」
国学者の折口信夫には、大和への深い思いがあった。大阪の折口家に養子に入った祖父が飛鳥の出身であったからである。高潔な祖父への敬意は飛鳥への思慕となり、多感で挫けがちな折口の心を支えていく。その思慕は大和の国への思慕ともなり、古代人にとっての古代を探究する折口の文学や学問の根底を構成するものとなる。本報告は、折口が「第二の故郷」と呼ぶ大和への思いを手がかりに、社会と文学とのつながりを折口がどのように考えていたのかを明らかにしていく。ただし、折口は大学進学以来東京に暮らしており、大和への思いは現実の生活に根ざしたものではない。しかしそれだけに、思いは自由に羽ばたいて、折口の文学とつながるのである。
■2022年度研究大会
日時:2022年7月30日(土)
開催形式:オンライン
12:45-13:00
開会挨拶ならびに総会 澤田美恵子
13:00-16:00
シンポジウム「いかにしてイメージに触れるのか」
デジタルテクノロジーの発達に支えられて、今日では多くの人々が容易に映像を制作・発信するようになり、それらを視聴するという経験もいまや当たり前のように私たちの日常に浸透しているといえます。その一方で、私たちは日々膨大な量の情報に埋もれてしまい、眼前に存在する他者や未知の出来事をアクチュアルに見る能力を著しく低下させているようにも思われます。このシンポジウムでは、光学的な現象に留まらない「イメージ」なるものに思考を向け、こうした現代のメディア環境において、いかにすれば「生き生きとしたイメージを獲得できるのか」という問いをさまざまな角度から考えていきます。
- 報告(1) 荻野雄「映画はなぜ「物理的現実の救済」なのか?/クラカウアーの『映画の理論』について」
- 報告(2) 岡元ひかる「イメージの模倣を超えて/舞踏家・土方巽が目指した「騙されやすい注意力」について」
- 報告(3) 小森はるか「見えないけどここに在る、を映すために」
- パネルディスカッション 荻野雄、岡元ひかる、小森はるか(司会・進行:青山太郎)
一般発表
16:10-16:40
有馬景一郎「フェリックス・ガタリの絵画論における、主観性の生産の意義」
(司会:吉川順子)
16:40-17:10
林宮玉「ジョルジュ・バタイユの文学論/「超過分」としての文学が向かう外部とは何か」
(司会:若林雅哉)
17:10-17:40
杉﨑哲子「筆文字の印象の言語化について」
(司会:檜垣立哉)
17:40-17:10 閉会挨拶 澤田美恵子
■2021年度研究大会
日時:2021年7月17日(土)
開催形式:オンライン
10:00-10:10
開会挨拶 伊藤 徹
一般報告
10:15-10:45
「フェリックス・ガタリのエコゾフィーと芸術――ラボルドのアトリエから『ファンタスティック・プラネット』まで」
発表者:香川祐葵(大阪大学)
司会:青山太郎(名古屋文理大学)
10:50-11:20
「バシュラールの風景論――力動的想像力の観点からみたフロコンの版画」
発表者:上野隆弘(大阪大学)
司会:吉川順子(京都工芸繊維大学)
11:25-11:55
「寺山修司・密室劇という試み・《阿片戦争》の場合」
発表者:伊藤徹(京都工芸繊維大学)
司会:若林雅哉(関西大学)
12:00-12:30
総会
12:30-13:25
昼休み
13:25-13:55
「政治を思考する上でなぜ「芸術」が問題とされうるのか?:ジャン=リュック・ナンシーの文学的共産主義によせて」
発表者:安藤歴(大阪大学)
司会:仁井田 崇(名城大学)
14:00-17:00
シンポジウム「偶然・言語・場所—宮野真生子が遺したもの—」
趣旨:社会芸術学会設立当初からの会員であり2019年7月22日に逝去した哲学者の宮野真生子は、アカデミズムの作法での研究に精力的に取り組みながら、その知的成果がどのように社会に接続されるべきか、いかなる相互フィードバック関係がありうるのかを問い続け、そうした接続の場を設けることに取り組んできた。死後刊行された、人類学者・磯野真穂との共著作『急に具合が悪くなる』にその姿勢は顕著に見られる。いわば、宮野は、学者であると同時に、社会と向き合う表現者でもあろうとしたと言えるだろう。そうした研究/表現活動のなか、宮野の関心は、九鬼周造研究から出発して、偶然性/出逢いと存在の論理、愛・性・家族、言語/詩論、あるいは食・病・生など、実存と表現をめぐるさまざまなテーマに伸び広がっていこうとしていた。今回のシンポジウムでは、狭義の意味での「追悼」ではなく、宮野の書き残したものやその関心を出発点ないし一つの契機として、多様なテーマをめぐって、社会芸術学会という自由な思想空間にふさわしい知的饗宴を実現したい。
提題者(*五十音順):
【論理と偶然】
竹花洋佑(福岡大学)「反復と偶然―九鬼時間論とシーシュポスの倫理」
【出会いと場】
谷口功一(東京都立大学)「夜の場での出会いと関わり—スナックを中心に」
【文学と偶然】
張文薫(国立台湾大学)「文学と偶然:すれ違いと歴史の幽霊」
【実存と性】
細井綾女(リヨン第三大学)「性器を切り取られた女、性器を切り取った女 :女性犯罪・高橋お伝」
司会:奥田太郎(南山大学)、藤田尚志(九州産業大学)